中期経営計画における人事戦略の変遷分析
ランキング順位に大きな変化はないものの質が大きく変化
ククレブ・アドバイザーズ株式会社のシンクタンク部門であるククレブ総合研究所では、2018年から2021年の間に提出された中期経営計画書(以下「中計」)について、CCReB GATEWAYのホットワード分析機能を利用して、各年のホットワードTOP30を纏め、分析を行った。
2018年から2021年まで人事戦略系ワードTOP10にほぼ変化なし
驚くべきことに、2018年から2021年に公表された中計における人材ワード(キーワードに“人材”を含むワード)を指定し解析をかけたところ、各年のホットワードの順位について多少の変動はあるものの、「人材育成」がすべての年で1位になるなど、この期間中に経営環境としては「カーボンニュートラル」や「ウェルビーイング」などコロナ禍を挟み大きく世の中が激変した中で、人材に関する企業の方針については、大きなトレンドの変化は見られなかったと言える。
≪中計における人材系ワードTPO30≫
※ククレブ総合研究所調べ(出典なき無断転載を禁じます)。
※CCReB GATEWAYのホットワード分析機能を活用し、中計における「登場数」順で順位を付けた。
人事戦略系ワードとしてDX人材の育成方針が登場したのは2019年以降
人材系ワードでも、一般の経営方針同様、デジタルトランスフォーメーション(DX)に関するワードが2019年以降に出現しているが、それ以前でも「デジタル人材」というワードにおいて、企業内のデジタル化に対応できる人材の育成を掲げていた企業(例:三菱商事株式会社)などは既に存在していたが、2019年の中計において「デジタル人材」に加えて、「DX人材」の育成がデジタルトランスフォーメーションという言葉の出現とともに人事戦略にも現れ始めたことが分かる。
人事戦略系ワードTOP10の顔ぶれは大きく変わらないもののコロナ禍を受け企業数や言葉の中身が大きく変化
TOP10の顔ぶれは大きく変化がないものの、そのワードに触れる企業はコロナ禍を挟んで変化が見られた。コロナ感染症が日本で初めて確認された2020年1月以降、多くの企業が中計の延期を余儀なくされたことから2020年自体が中計を公表した企業が大きく減少したものの、2021年はウィズコロナの時代における働き方改革や仕事に対する価値観の変化に伴い、各ワード共に企業数が激増しており、「人材育成」を企業の経営目標に謳う企業数は、2020年から2021年にかけて約2.2倍と大きく増加した。同じ「人材育成」でも、2018年では人事評価制度などに触れる企業(例:小田急電鉄株式会社)が多かったが、2021年においては、ESG戦略に関連した、サステナブルな企業活動を支える人材育成(例:アスクル株式会社)と、同じ「人材育成」というワードでも企業における人材育成の位置づけは大きく変化している。最近の中計においては、ダイバーシティの推進やDX人材の採用など、より具体的な目標を掲げる企業が多くなっており、TOP10の顔ぶれに大きな変化はないものの、「質」が大きく変化していることが分かる。
人事戦略系の注目ホットワードは「タレントマネジメントシステム」
今回公表したTOP30には登場していないが、注目のワードとして「タレントマネジメントシステム」が挙げられる。タレントマネジメントシステムとは、人材に関する情報を一元的に集約し、全社的に共有することで評価業務や人材育成・活用に役立てるシステムを指すが、コロナ禍による環境の変化により、より効率的に人事業務を推進し、人事部門の慢性的な「人材不足」を解消する手段として、近年サブスクリプションサービスとしてタレントマネジメントシステムのサービスが急速に企業に浸透しているが、中計においてもその傾向を見て取れる。
今回のTOP30に上がっているワード自体を個別に対応していくために、人材を正しく評価し、人材の個性を把握し、適切な部署への配置、新規事業への対応など戦略的な人材配置を行うためにも、人事戦略の自前主義からの脱却という流れは、2022年において更に広がっていくものと思料する。
以上、CCReB GATEWAYを活用して、各業種の2018年から2021年の人材系のトレンドワードを分析した。本年5月から6月にかけて、多くの企業で新たな中計の公表が控える中、ククレブ総合研究所では、GATEWAYのホットワード分析機能を活用してスピーディーに今回の調査について最新の中計の分析を加えてさらにアップデートして公表を行う。