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上場企業の適時開示資料から読み解く2025年上半期のM&A最新動向

ククレブ・アドバイザーズ株式会社のシンクタンク部門であるククレブ総合研究所(以下、「ククレブ総研」)では、上場企業が適時開示を行ったM&Aに関するリリースについて、当サイト「CCReB GATEWAY」の『IRストレージ』機能を活用し、2025年上半期のトレンド調査を行った。

▽▽2024年の調査レポートはこちら▽▽

上場企業の適時開示資料から読み解く2024年のM&A最新動向

(注)CCReB GATEWAY_IRストレージ機能において「M&A」に分類されるリリースは、「株式取得(子会社化を含む)のお知らせ」「事業譲渡・譲受のお知らせ」その他「組織再編のお知らせなど」様々なリリースを含むが、これらのリリースを個別に仕訳することなく、単純に年間にリリースされた件数を追うことによって大まかな業種毎の動き・トレンドを分析していることをお含み置きください

 

M&A関連リリース件数は2023年以降、毎年増加傾向

ククレブ総研では当該調査を2018年から遡り毎年調査を行っている。2018年は年間2,300件超のリリース件数であったが、2019年から2022年の4年間は一時、平均約2,000件/年に停滞していたものの2023年は約2,300件、2024年は約2,700件と毎年増加傾向にあり、2025年は6月末時点で約1,400件と昨年と同等または上回る件数となっている。2025年上半期の注目すべきM&A事例としては、ベインキャピタルによる敵対的買収として注目を浴びた富士ソフト(上場廃止)のTOBや、当初は友好的買収としてスタートしたものの、日米両国の経済・政治・安全保障に大きな影響を与えるとして難航した日本製鉄(54010)によるUSスチール買収が挙げられる。今後も大きな業界再編や同意なき買収、アクティビストによるM&Aは増加していくものと想定される。

 

前年を上回る勢いをみせる開示件数

<東証適時開示資料におけるM&A関連リリースの業種TOP10>

※CCReB GATEWAY「IRストレージ機能」よりククレブ総合研究所作成(以下同様)

上図は、東京証券取引所(以降、「東証」)の適時開示情報閲覧サービス「TDnet」に適時開示された2020年1月から2025年6月までの6年間に渡るM&A関連のプレスリリースを纏めたもののうち、上位10件をあらわしている。上位10業種は過去5年平均対比約130%の進捗率であり、2023年以降から続くM&A関連のリリース件数の増加は今年も続いている模様である。

TOP10のうち2025年の注目業種は「その他金融業」(リース会社、クレジットカード会社、消費者金融等)。2018年から2022年までは平均35件/年の件数であったが、2023年は44件、2024年は56件と増加しており、2025年6月末時点で35件と過去と比較し2倍近くの伸長が見込まれている。NECキャピタルソリューション(87930)による不動産投資・再生可能エネルギー投資事業部門の会社分割や、「モビリティ物流」への経営資源投下を成長戦略とする芙蓉総合リース(84240)による物流機器の販売レンタルを手掛ける企業の株式取得など、規模の拡大や事業多角化を目的としたM&Aが活発化している。

 

「輸送用機器」「繊維製品」業界におけるM&Aの増加に注目

<東証適時開示資料におけるM&A関連リリースの業種TOP11以下>

※内国法人・組合、外国法人・組合は有価証券報告書等の提出義務者ではないが適時開示を行っているためカウント

TOP11以降の業種における2025年上半期の注目業種は、上半期時点で例年の開示件数に到達をしている「輸送用機器」と「繊維製品」が挙げられる。

「輸送用機器」においては2023年より協議が継続されていた日野自動車(72050)と三菱ふそうトラック・バスによる経営統合契約の締結やトヨタ自動車(72030)によるバッテリーEV開発生産会社の中国設立、三櫻工業(65840)による海外自動車部品メーカーの株式取得等、業界構造の変化、次世代モビリティ関連への投資、為替変動や地政学リスクを背景にした自動車部品サプライヤーによる国内外企業の統廃合といった戦略的な再編が進んでいる。

「繊維製品」では事業領域・ポートフォリオの見直しによる資本効率を重視する経営への転換を目的とした株式譲渡が積極的に行われており、ワコールホールディングス(35910)、オンワードホールディングス(80160)、TSIホールディングス(36080)といった業界大手企業を筆頭に中核事業への経営資源の集中に向けたポートフォリオ再編が積極的に行われている。

 

以上、今回は「CCReB GATEWAY」の『IRストレージ』機能を活用して統計調査を行った。『IRストレージ』はTDnetとAPI連携し日々開示されるリリースを収集しており、2018年以降のデータを格納しております。会員登録(無料)を頂くことで詳細検索・データ取得が可能となりますので、統計調査や最新リリースの把握等にご活用ください。

また、ククレブ総研では上場企業の経営動向調査として、M&A調査の他、中期経営計画(以降、「中計」)で取り上げられるワードの増減率に着目したホットワードトレンド調査を行っています。最新レポートでは2025年上半期に公表された中計をもとにした最新の経営ホットワードをレポートしており、「海外M&A」が2025年に開示された中計上でホットワードとして浮上しておりますので、是非ご注目ください。

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当レポートは、情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではございません。また、本内容は現時点での判断を示したに過ぎず、データ及び表現などの欠落、誤謬などにつきましては責任を負いかねますのでご了承ください。当レポートのいかなる部分もその権利はククレブ・アドバイザーズ株式会社及びククレブ・マーケティング株式会社に帰属しており、電子的または機械的な方法を問わず、無断で複製または転送などを行わないようお願いします。

 

監修

ククレブ・アドバイザーズ株式会社 代表取締役
ククレブ・マーケティング株式会社 CEO
不動産鑑定士
宮寺 之裕
大手リース会社、不動産鑑定事務所を経て、J-REITの資産運用会社の投資部門にて企業不動産(CRE)に携わる。
大手事業法人のオフバランスニーズ、遊休地の活用等、数々の大手企業の経営企画部門、財務部門に対しB/S、P/Lの改善等の経営課題解決を軸とした不動産活用提案を行い、取引総額は4,000億円を超え、CRE戦略の立案から実行までを得意としている。
2019年9月に不動産Techを中心とした不動産ビジネスを手掛けるククレブ・アドバイザーズ株式会社を設立し、2024年11月に創業から5年で東証グロース市場に上場。
データマーケティング事業においては2021年10月にククレブ・マーケティング株式会社を設立し、現在に至る。