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ABMとは? シリーズ第2弾2023年ウエビナーでフォーカスするポイント8点を分かりやすく解説!(入門編②)

ABM(シリーズ第1弾 入門編①)ではABMの言葉の意味やABM導入にあたり重要となるリードの定義付けについて解説をいたしました。

前回レポート:ABMとは? シリーズ第1弾_言葉の意味やABM導入にあたり重要となるリードの定義付けを分かりやすく解説!(入門編①)

本レポートでは入門編その2としてマーケティング部門、営業部門は、ウエビナー開催時のリード獲得の際、どのような点を共同でフォーカスしていく必要があるのか、ウェビナー運営実務者の経験をもとに解説していきます。

 

ABMの観点でウェビナー開催時にフォーカスするポイント8点とは

当社では以下の8点をリストアップすることを推奨します。

  • 申込者(登録者)
  • 視聴参加者
  • 視聴履歴
  • 視聴の尺
  • ウエビナーで使用した資料のダウンロードの有無
  • アンケートの回答の有無
  • アンケートのポジティブ、ネガティブの精査
  • リードの精査による質と提供のスピード

上記8つのポイントからMQL (Marketing Qualified Lead:マーケティング活動によって創出された確度の高いリード(見込み顧客))を精査することが可能と考えます。

 

①申込者(登録者)

ウエビナー乱立時代に、複数のウエビナーが同日同時間の重複は起こりがちです。

多忙なビジネスピープルほど、興味あるウエビナーに登録はしたものの、当日の予定がまだ確定していないため、視聴できるかは直前まで未定、といったケースがあります。

セミナーであれば告知開始は、実施前の1か月半からで十分でしたが、ウエビナーの場合は、1か月前からの告知と直前1週間前、そして前日か当日のリマインダーで、再確認する必要があります。

 

②視聴参加者

申込登録者の実際の参加率、いわゆる歩留まりはメディアによっても、テーマによってもかなり異なります。一般的には5から6割の歩留まりで「合格」といったところでしょうか。

コロナ渦前の集客とは明らかに異なる傾向が・・・

2023年に入り、コロナ渦でオンライン開催だけだったウエビナーを、リアル会場も復活させてハイブリッド開催、といった展開も増加傾向にあります。

ところが、ハイブリッド開催にしたことにより、ウエビナーへの集客とリアルな会場の集客とそれぞれの経験通りの想定値にならず、歩留まりが読みにくい環境となっています。

リアルな会場を設定すれば、客はライブで会場に来てくれると思っている主催者。

一度オンンラインでウエビナーを経験した視聴者は、あえてリアル開催があっても会場に行くメリットは感じることがなく、迷った末にオンライン視聴を選択、といった例が増えています。

 

③視聴履歴

ウエビナーでは視聴履歴を見れば、指標のひとつとして、視聴参加者の関心度、本気度を計測・推測することが可能です。

しかしながら、「視聴履歴あり」だけで、営業側にリードを提供すると、以下のようなリスクが発生します。

  • 視聴履歴が最初の主催者側の基調講演だけ視聴したリード
  • 他社のセッションだけ視聴したリード
  • 自社のセッションを視聴してくれたが、最初の5分だけで離脱したリード

上記のリードをMQLとして営業側が提供された際、セールスフォローで、カスタマーサクセスがつらい思いをするのは明白です。

解決策として、以下が挙げられます。

  • 視聴履歴は個人ごとの視聴履歴が確認できる動画配信プラットフォーム※を採用する
  • 個人の視聴履歴とMA(Marketing Automation:マーケティング業務を自動化するためのシステム)が連携できることを想定
  • 既存顧客とのすり合わせが可能であることを事前に営業側と確認する
  • 視聴履歴の指標は「完全視聴」もしくは「75%視聴」とする

※動画配信プラットフォーム=Brightcove(ブライトコーブ)、Vimeo(ヴィメオ)、J-Stream Equipmedia(イクイップメディア)ULIZA(ウリザ)、等を指します。

 

④視聴の尺

コロナ渦前のセミナーで、視聴者の集中力が持つのは50~60分まででした。ウエビナー全盛時に50分でも長いといった声が多くなり、現在では30~40分がスタンダードではないかと思われます。③(視聴履歴)との関係性が強く、長いと分かっただけで視聴を敬遠するリードが増えることは得策とは言えません。結果、できるだけコンパクトに動画を展開していく時代に向かっているようです。

TikTokは当初の15秒から60秒へ、2021年7月に60秒から3分へ、2022年2月に10分に尺が伸びています。

B2Cの動画の尺の長さやスマホファーストも意識しながら、B2Bの視聴の尺も勘案していく時代に向かっています。

「完全視聴の尺」も昔の経験の尺が通用しなくなっている可能性があります。自社の動画視聴時の全体の尺に対する離脱時間の割合をもとに、定期的に数値で確認・判断することが肝要です。

 

ウエビナーで使用した資料のダウンロードの有無

自社のセッションの視聴者が、商品購入やサービス導入を検討する際、資料を閲読するために、ダウンロードをします。

まだ知名度のない会社やIPO前後の企業にとっては、動画視聴用の資料はもとより、会社案内も視聴者のダウンロード時に重要な資料と言えます。

ダウンロード資料の件数は、ウエビナーのプラットフォーム上の制限(容量や件数)と主催者の意向によりますが、ウエビナーの資料とあわせて会社案内もダウンロードしてくれている視聴者はホットリードの上位に位置付けることとなります。

 

アンケートの回答の有無

セミナー開催時は参加者が会場を退出する際、出口でアンケートを回収しやすいので、回収率が80%を超えます。

一方、ウエビナーのデメリットのひとつは、このアンケートの回収率にあります。

ウエビナーのプラットフォームは、アンケート回収のためにポップアップ表示やトップ画面、カルーセル上掲出等、アンケートへの誘導を図るため、様々な機能を有しています。

さらには、配信画面を閉じる際、アンケートのリマインダー告知画面やウエビナー終了後のフォローアップメール内でのアンケートの呼びかけ等、標準実装されているプラットフォームもあります。

それでも、ウエビナーのアンケート回収率は平均10%から20%前後ではないでしょうか?

ウエビナーの視聴者は、忙しいので、アンケートには回答せず、視聴を終えると同時に離脱し、次の業務へ、となりがちです。多忙なビジネスピープルであればあるほど、この傾向は高いように思います。

ウエビナー開催時、セミナー慣れした関係者から、アンケート回収率の低さを指摘する声が上がりやすいのですが、ウエビナーでアンケートに期待するものは、従来のセミナー開催時とは異なる発想が必要なようです。

さらに⑦のような仕分けも今後の課題にあがります。

 

アンケートのポジティブ、ネガティブの精査

アンケートの有無だけで、MQLとして営業側に提供している企業も多数あります。

回答いただいているとは言え、ネガティブな意見、批評だったりする場合もあり、この点を含めて、営業側には丁寧な情報提供がなされなければなりません。

一方で、ポジティブな意見だと認定できたリードには迅速なフォローアップが必要です。

 

リードの精査による質と提供のスピード

主催者が自社の場合は問題ありませんが、メディアや他社のウエビナーに参加した場合のリードが提供されるまでの期間、日程は事前共有が肝要です。

リード提供は①から⑦までの確認だけでも、緻密さと丁寧さが要求されますが、スピードを重視しすぎると質が下がり、主催者がリードを精査するとスピード感に欠けて、せっかくの有力な潜在顧客へのフォローがウエビナー終了後から、2週間以上といたケースもあります。

リードを精査することを英語では、Data Cleansing、Data Screening、Data Cleaning、Data scrubbingと言い、これらは、ほぼ同義語で使用されています。ところが、関係者間で、リードのデータクレンジングを行う際の定義が明確にされている企画書は意外と少ないのです。

  • 欠損(未記入の項目、誤字脱字の修正)
  • 重複
  • 表記ゆれ(入力方法、新字体と旧字体)
  • 表記ゆれによる社名重複、社名変更後の名寄せ
  • 粒度(データの細かさの差異:月単位と日単位)
  • 反社チェック
  • 住所・電話番号・メールアドレス⇒ 勤務先のみ、自宅のみ、それとも両方
  • 電話番号⇒固定電話、携帯電話
  • 上記のデフォルト設定での必須要件の確認⇒入力しないと申請・申し込みができない設定

セミナー・ウエビナー主催者は上記の入力情報の不備を修正し、活用できる状態に整え、データの質を向上させます。

保守的な主催者は、このデータを精査し、クライアントに提供してきました。一方、クライアントのスピード重視の意向で、データクレンジングは不要だから、ウエビナー終了後とにかく早くリードを提供してほしい、という声もあります。

こうした声をもとに、リード提供をスピード重視と考える主催者もあります。

リード提供は、個人情報の第三者提供にあたります。そのため、個人情報取得のための準備、告知、提供するためのソフト・ツールには、最新の注意を払う必要があります。

データ精査を行うことは、主催者にとって、主催者自体の信頼性、信用力を高め、ブランディングにもつながりますが、コストとの見合いでもあります。主催者はユーザーの個人情報を遵守するために、法とポリシーに則り、ユーザーの「同意」を取ります。ユーザーに対する責任を負うこととなります。

スピード重視を標榜する主催者はデータの精査はせずに、クライアントにIDとPWを提供し、個人情報の第三提供の業務プロセスをできるだけリスクヘッジするケースもあります。

上記のどちらをご希望するかは、主催者、企業の各担当者の意向次第ですが、事前のすり合わせが必要不可欠です。

  • 主催者と参加企業間で、スピード重視でリストを入手し、営業側に共有したいのか?
  • 参加企業の担当者はデータクレンジングする時間や手間がないので、主催者側サービスの一環として、データクレンジング後の質の高いリスト提供を依頼したいのか?
  • 主催者側の精査は期待していないので、スピード重視で、自社のDMP(データマネジメントプラットフォーム)に連携させたいのか?

ABMの思想で、リードを考える際、上記の課題を個人単位で解決するのは難しい状況です。

特に、フォローアップする部署やカスタマーサクセスの役割を勘案すると、現状に即した課題として、上記の確認事項は

  • 事後ではなく、すべて事前に実施しておくこと
  • 個人ではなく、部署としての明確な定義しておくこと

が最重要だと言えます。

 

次回は、フォローアップする部署とカスタマーサクセスの役割の変遷をフォーカスし、CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)の目線からABMを解説していきます。

 

 

監修

株式会社デジタルマイス 代表取締役社長
菊地 伸行

大手新聞社入社後、アメリカ西海岸に駐在し、ロサンゼルス、シリコンバレー、サンフランシスコ、シアトルをカバー。現地から、グーグル、アマゾン、セールスフォース等の日本進出を支援。帰国後、G7伊勢志摩サミット特集、GDPRセミナー等を立案・運営。
直近では、(不動産テック)をテーマにNIKKEI PropTech Conference、個人情報保護法改正・電気通信事業法改正をテーマにNIKKEI Privacy Conferenceの立案、運営。
アドテク、マーテク分野での講師として、Exchangewire ATS tokyo、Ad Tech International Tokyo、Event Marketing Summit、日本パブリックリレーションズ協会等で講演を行う。
2023年1月に株式会社デジタルマイスを起業し、現在に至る。

社名のマイス(MICE)はMeeting、Incentive、Convention(Conference)、Event (Exhibition)の略語であると同時に、Media Relations(PR+AD)、Investors Relations、Corporate Communication、Engagementの頭文字でもある。
「広報・宣伝・デジタルをワンストップでアドバイス」をモットーに①コンサルティング業務(デジタル、PR、IR関連)②メディア・情報発信業務支援③コンテンツマーケティング業務を支援。
https://dmice.co.jp/