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ABMとは?シリーズ第5弾注目すべき新設部署と、アプローチ時に押さえたい中期経営計画について解説

全5回に分けて解説してきた「ABM」レポートの総集編。当該レポートではABM目線で注目すべき部署と中期経営計画の活用について解説します。

(前回までのレポート)
ABMとは? シリーズ第1弾_言葉の意味やABM導入にあたり重要となるリードの定義付けを分かりやすく解説!(入門編①)

ABMとは? シリーズ第2弾_2023年ウエビナーでフォーカスするポイント8点を分かりやすく解説!(入門編②)

ABMとは? シリーズ第3弾_CRMでデータの基礎固めはできていますか?フォローアップする部署とカスタマーサクセスの役割(入門編③)

ABMとは?シリーズ第4弾 地方の金融機関との取引を想定し、現在の金融機関の実態について解説

 

テック大手各社は22年秋以降、大規模な人員削減に

2023年に入り、景気後退や業績鈍化懸念が高まり、コスト削減圧力が強まってきました。

大規模な人員削減下で、カスタマーサクセスの担当者が異動の対象となり、担当者の変更連絡の機会が増えることが予想されます。

優秀なカスタマーサクセスの担当者が交代してしまい、より多くの社を担当する後任の担当者が着任することになれば、どうしてもクオリティが下がることになります。

従来の担当者に比べ、回答が遅くなり、適切なアドバイスを頂戴できない、といったことが増える可能性があります。

しかし、こうしたことも想定内として対応できるよう、準備しておくことが肝要です。

 

契約しているCRM,SFA,MAのレビューとID契約数の確認

導入済みのCRM、SFA、MAに重複はないのか?
未だに部署ごとに別々のツールが入っている状態だが、これを機に統一できないのか?

点検が必要な時期に来ています。

 

①契約内容自体の振り返り

✓契約時はすでに競合他社が先行導入しており、同業他社が利用しているツールだから、という理由で採用した

✓MAを入れたのに、メール配信機能だけしか利用していない

✓後からオプション機能追加だと、社内稟議を通すのが大変だったので、契約時点では、ある程度オーバースペックなツールを採用しておいたが、実際は当該機能を活用していない、できていない

✓一定のリモート環境が継続される中、各人の利用時間、頻度は契約時の想定と比べてどうか

 

②サブスクモデルの振り返り

✓ID契約者の利用状況確認

✓IDごとの効率・効果等判断

✓ID契約数の削減検討

✓今後投入するサービス、商品とのクロスセル、アップセルの事前確認

 

上記の振り返りは、①②ともに、固定観念と既成事実が先行し、作業がルーティン化されているケースが多いため、それぞれデータで社内の関係部署に開示し、コンセンサスを取っていく必要があります。

 

右肩下がりの局面でも、CRM,SFA,MAの有効な活用法、ノウハウを共有できるパートナー

様々な振り返りを行い、製品のダウングレードやコスト削減を図ることとなりますが、こうした向きあいに真摯に応じてくれるカスタマーサクセスこそ、真のパートナーと言えます。双方の交渉条件が厳しい状況の時こそ、サポートしてくれる担当者が重要です。

ツールを提供する各社は、右肩上がりだけを想定して、セールスのシナリオを構築していることが多いようです。

しかし、人口減少のマーケット、地域等がある場合の想定もありうるわけで、量から質のディスカッションが必要です。量が減っても質、カロリーをあげていく戦略です。質のディスカッションが商品やサービスの値上げであっても良いわけです。

そうした意味で、2023年は「プライシング」の議論が注目されるのではないでしょうか。

これまでの「プライシング」は、右肩上がりの「量」による「ボリュームディスカウント」が分かりやすい事例かと思います。

今後ABMを展開する際には、「質」による「ダイナミックプライシング」「スキミングプライシング」「ペネトレーションプライシング」等、「プライシング」を踏まえた戦略を相談できるカスタマーサクセスが求められています。

 

「右肩下がりの市場」が多い中で探す「右肩上がりの市場」

「右肩下がりの市場」が多い中、「右肩上がりの市場」を探しておくことが重要課題となります。会議で「右肩下がりの市場」のネガティブな事実だけを検証していても売上は増えません。

どこに「右肩上がりの市場」が存在するのか、常にアンテナ感度を鋭くしておきたいものです。

今年も円とドルの話題は続くと思われますが、円安、円高を例にあげてみます。

これまで日本国内で価格を固定して売っていた商品、サービスは、海外から見れば、2~3割安になっています。

海外の企業にとって、ひとり当たりのリード獲得単価も円ベースでは固定していましたので、実質2~3割、下がっている状況です。ABMでいえば、同じリードの対象者ですが、昨年と今年で、ウエビナーの開催時期が異なるだけで、リード単価が下がっているのです。

円安局面において、リード単価が下がることで追い風となる企業、それは外資系企業です。日本に進出してきている多くの外資系企業は販売の絶好の機会が訪れています。

2022年、CRMやMAのテーマで、この点を英語でプレゼンすると外資系企業の方々には大変腹落ちするようでした。リード単価にフォーカスし、為替をベースに議論を展開すれば、絶好の機会だと気づく本社のCEO、CMOが多数おられました。この傾向は過去円安局面のたびに同様に起きていた現象です。2023年前半は同様の傾向が続くものと予想しています。

日本企業が「プライシング」をリード提供前提でマネタイズしているのであれば、為替分を踏まえ、円ベースで値上げしても良い状況にすらあります。

日本企業は、商品やサービスを国内市場で、ドル建ての値付けを先にしてから、円換算するといったプライシング戦略を展開しても良いのではないでしょうか?

もうひとつ別の事例をあげます。

国内の水産物をフォーカスすれば、青森で、マグロの市場は不調だと言われていますが、ホタテの市場は海外向けで大変好調だと言われています。国内の水産物は厳しい、と言われがちですが、同じ水産物でも、右肩上がりに成長している市場はあります。

成長している市場、これから成長していくと思われる市場に目を向け、アプローチしていくことが肝要です。

 

新しい部署、新しいプロジェクトの発足

春は新しい部署名は新規開拓の宝庫です。やる気のある新任の部長、上長が着任する時期です。今後、成長が予想される市場は、新しい部署、プロジェクトの発足に目を向けていきたいと思います。

 

ABMの起点となる部署・新しい部署は具体的にどのように探せば良いか?

気になるテーマ、旬なトピックスに対応している企業、潜在顧客としてリストに入れてある企業において、春、新しい部署は発足するのでしょうか?

またどのようにリサーチして発掘していけば良いのでしょうか?

当社からのお勧めは、以下の通りです。

①「日本経済新聞朝刊」の企業・人事面を確認

②「日経電子版」の「速報内の人事」https://www.nikkei.com/news/jinji/ を確認

③「日経人事ウオッチ」https://www.nikkei.com/jinji/all/ ではさらに深堀り

④「日経人事ウオッチ Pro」 https://telecom.nikkei.co.jp/guide/relevance/njw/

上記①~④はそれぞれ有料ですが、個別に検索エンジンで調べる時間を考慮すれば、大幅な時短につながります。

⑤日本企業の場合は各社の部署名、肩書をSanSanで検索

⑥海外で先行しているテーマで、海外企業はどのような部署名、呼称となっているのか?英語の部署名、肩書をリサーチするためには、LinkedInで検索。

上記⑤~⑥では呼称から各社の新規事業の姿を垣間見ることができます。

 

注目される新しい組織、部署とは?

サステナブル、サステナビリティ経営がもたらす新しい組織

Chief Sustainability Officer(最高サステナビリティ責任者)は欧米では定着していますが、昨年来、日本企業でも同タイトルに着任される方が増えてきました。

これまで「CSO」と言えば、Chief Strategy Officer(最高戦略責任者)またはChief Security Officer(セキュリティー最高責任者)でしたが、最近はChief Sustainability Officerが俄然検索エンジンでも上位に来るようになりました。

また、役員会直轄のサステナビリティ委員会を設置する企業も増加傾向にあります。

諮問は委員会で、実行、運営はサステナビリティ関連部署が受け持ち、機能を明確にすみわけしているケースもあります。

<サステナビリティ関連部署>

サステナブルビジネス推進室、サステナビリティ推進室、サステナビリティ企画部、サステナビリティ推進部、サステナブルインパクト推進部等

 

サステナビリティを金融・融資の目線で見た新しい部署、ESG部門の新設

<ESG関連部署>
ESG推進室、ESG推進本部、、ESG統括推進部、ESGストラテジックマネジメント室、ESG経営推進本部、ESG経営推進部、ESG戦略本部、ESG部、ESG・HR統括等

ESG経営を説明する際、今の時代に難しいのは、活動に沿った情報発信に、より丁寧さが求められている点。

活動だけでは足りず、活動したら、その内容は具体的に発言し、情報発信する一方で、活動内容を過度に伝えてはならないし、矮小化して伝えてはならない。

この適度なポジションをキープするのが、広報やIR部門に求められる時代になり、企業はその順応力を問われています。

 

企業内の新規事業の部署にフォーカス

新規事業のネーミングでは各企業のセンスが問われます。

新規事業開発室、新規事業推進部、新規事業開拓統括部、新事業開発部、新規事業推進統括部、新規事業準備室、スタートアップ関連部署等

企業内起業、スタートアップは各種補助金等も充実し、新事業を起こしやすい環境になってきました。スタートアップという言葉自体が当たり前のこととして、使用されることになりました。大企業だけでなく、VCによる若い企業への投資も行われるようになり、大企業の新しい部署とスタートアップ企業とをくくりながら、ABMの目線で、潜在顧客をリスティングすることも可能ではないでしょうか。

上記の各部署は、今後さらに新設、増員がなされていくことが予想されます。

 

中期経営計画書から読み解くためのABM

海外と日本の金融市場を比較することは多々ありますが、海外の企業が中期経営計画書を策定していないことはご存じでしょうか?

日本の上場企業の約50%程度(ククレブ総合研究所調べ) が中期経営計画書を作成していますが、中期経営計画書の期間は、各社各様。その期間は3年、4年、5年が多いようです。

さらに中期経営計画は振り返りがなされていないケースも多く、未達率は約4割とも言われています。

日本国内で、日本の投資家やステークホルダーに対し、社長はもとより各担当役員の在任期間中の課題をクリアするための目標が中期経営計画に宣言されているのであれば、この中期経営計画書をもとにABMを展開することが当社ではベストと考えます。

 

ABM目線で、中期経営計画書はクライアント訪問前の予習テキストに!

金融業界の方を除くと、中期経営計画書を読んでいる方は少ないのではないでしょうか?

何よりページ数が多いため、自社の中期経営計画書はもとより、顧客の中期経営計画書も読んでいない方が圧倒的に多いのではないでしょうか?

当社では、顧客訪問前に、中期経営計画書を一読した上で訪問するよう心掛けています。

さらにパワーポイントでプレゼンテーションする場合は熟読し、可能な限り、中期経営計画書で使用されている関連用語・キーワードをちりばめるようにしています。

目次を俯瞰し、章立て(章・節・項)を分析すれば、担当役員、担当部署の割り振りが見えてきます。これこそがABMの考え方であり、ターゲットと合致します。

プレゼンテーションする部署が担当している章には、概ね担当役員の投稿、メッセージが掲載されているものです。

間違っても別の部署の長のパートをプレゼンテーションでは引用することのないよう、十分な配慮が必要です。

また、プレゼンテーションの際、決して顧客の前で、「御社の中期経営計画書を読んで来ました」とは言わないことです。顧客の各担当役員や部長は担当領域の章の承認者であり、校了の責任者ですので、言わずもがな、説明を聞いていれば分かります。

中期経営計画書を作り手の立場になって考えてみましょう。作成する当事者の思考や段取りをイメージして、計画書を2度読むこともお勧めします。

以下の記事では中期経営計画の作り方について解説しておりますので、併せてご一読ください。

中期経営計画の作り方は?経営企画セクションに配属されたら必読の便利情報をプロが簡単解説

 

最後に

ABMをシリーズで解説してきましたが、最後に情報発信と収集に関して補足します。

2023年は以下の各部署へのアプローチを念頭にABMでアプローチ

・サステナビリティ関連部署

・ESG関連部署

・新規事業関連部署

上記の新しい各部署は社長や役員会直轄であることが多く、こうした際にもうひとつ重要な点が情報発信の場面です。

具体的には新しい部署とPR部署、IR部署とのリレーションが課題となります。

各部門が上層部と直接コミュニケーションを取る、取れる部署ゆえ、この情報発信の準備・整理・すりあわせが必要不可欠となります。

どの場面でCEO、CSO、CFOの誰が情報発信するのか、日頃の社内コミュニケーションのクオリティが問われる機会となります。

こうした中、当社で運営するCCReB GATEWAY (https://ccreb-gateway.jp/)では様々な分析を行っています。

例えば、「ホットワード分析」では全ての業種の中期経営計画書から前年対比での解析をしています。2022年(2021年対比)の登場数増減率トップランキング 40位までの中で、サステナブル、SDGs関連では以下の用語がランキングに入っています。

3位 サステナブルファイナンス

13位 サステナビリティ委員会

21位 サステナビリティ情報

38位 サステナビリティ活動

CCReB GATEWAYのサイト内には、他にも「SDGs・ESG」のコンテンツがあります。

ククレブ総合研究所の中に、「SDGs・ESG」

https://ccreb-gateway.jp/?reports_category=sdgs

IRストレージの中には「ESG」

https://ccreb-gateway.jp/ir-storage/?section=52

 

今後、中期経営計画書を紐解き、各部署の共通プラットフォームとして、議論を重ねる際にぜひCCReB GATEWAYをご活用ください。

 

 

監修

株式会社デジタルマイス 代表取締役社長
菊地 伸行

大手新聞社入社後、アメリカ西海岸に駐在し、ロサンゼルス、シリコンバレー、サンフランシスコ、シアトルをカバー。現地から、グーグル、アマゾン、セールスフォース等の日本進出を支援。帰国後、G7伊勢志摩サミット特集、GDPRセミナー等を立案・運営。
直近では、(不動産テック)をテーマにNIKKEI PropTech Conference、個人情報保護法改正・電気通信事業法改正をテーマにNIKKEI Privacy Conferenceの立案、運営。
アドテク、マーテク分野での講師として、Exchangewire ATS tokyo、Ad Tech International Tokyo、Event Marketing Summit、日本パブリックリレーションズ協会等で講演を行う。
2023年1月に株式会社デジタルマイスを起業し、現在に至る。

社名のマイス(MICE)はMeeting、Incentive、Convention(Conference)、Event (Exhibition)の略語であると同時に、Media Relations(PR+AD)、Investors Relations、Corporate Communication、Engagementの頭文字でもある。
「広報・宣伝・デジタルをワンストップでアドバイス」をモットーに①コンサルティング業務(デジタル、PR、IR関連)②メディア・情報発信業務支援③コンテンツマーケティング業務を支援。
https://dmice.co.jp/